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聞き手・照井琢見
朝日新聞は、朝日新聞社が発行する日本の全国紙の一つで、発行部数は読売新聞に次ぐ第2位です。10月26日、朝日新聞は『キミとアイドルプリキュア』で紫雨こころ/キュアキュンキュン役を務める声優・高森奈津美さんのインタビューを掲載しました。
高森奈津美のキミとキラッキランラン腐った
放送中のアニメ「キミとアイドルプリキュア♪」(ABCテレビ・テレビ朝日系、日曜朝8時30分)のキャストが月に1度、思いを語る連載「キミとキラッキランラン」。10月末は、キュアキュンキュンに変身する紫雨(しぐれ)こころを演じる高森奈津美さんです。
ダンスにストイックで、アイドルプリキュア一番のファンでもあるこころ。最近はいろいろな表情を見せるようになってきました。まずは思わぬ一面をのぞかせた、あの回の裏話から……。
◇
いじってみるか!
キミプリのエピソードが30話を超えてきて、こころちゃんの出せる感情が広がってきたと感じています。
シリーズディレクターの今千秋さんをはじめスタッフの皆さんが、私たち声優が自由に出したものを受け入れてくださる。そんな懐の深い現場だと、時間をかけて私たちも知っていったからだと思います。
たとえば、「もしかしてこのせりふ、ちょっと直した方がいいでしょうか」と尋ねると、逆に向こうから「こころは何て言う?」と聞かれることがあるんですね。
そうか、私が考えてもいいものなのか。私がこころについて考えていいんだ。その気づきは私にとって結構大きかったんです。
私の勝手なイメージで、こころの感情や、やれることを狭めたくないと思うようになりました。

第31話「アイドルプリキュアのセンター⁉」(9月7日放送)で、こころが妖精ザックリンに「それでいうと、ザックリンはキュアウインクですか?」と尋ねる場面がありました。素直にウインク推しだと言わないザックリンを、こころがいじるシーンでした。
オンエアを見て初めて、こころちゃんはこんなに可愛らしい顔で、ザックリンを煽(あお)っていたんだ、こんな表情をするんだ、と驚きました。アフレコの段階では、完成前の画面を見て収録することが多くて、放送までこの場面のこころちゃんの表情は見ていなかったんです。
このせりふのト書きには、「いじる」と書いてあるわけではありませんでした。もっとあっさりと、淡々とした調子で尋ねる選択肢もありました。
ただ、これまでのエピソードの積み重ねがあって、みんなの関係性がしっかりと構築されているのを感じていたんです。
ザックリンは、かつてチョッキリ団の一員として、こころのお母さんからキラキラを奪ったこともあります。こころにとっては、嫌おうと思えば、嫌えるタイミングはいくらでもあった相手です。
でもザックリン自身が、キラキラを取り戻した。こころちゃんにはサッパリしたところがあって、今ではザックリンを仲間として認めて、一緒にファンクラブ活動を頑張っている。

それに、キミプリに参加しているキャストの皆さんは、ザックリン役の佐藤せつじさんはじめ、皆さん芝居に「遊び」がある方々です。私たちがただ真面目にやっていたら、負けてしまうと思う部分もあります。
そんな積み重ねのなかで、「こころちゃんってザックリンをいじれるかも?」と思ったんです。それで、ザックリンをからかうような口調で、あのせりふを言ってみました。
こころが誰かのことを煽る場面は今まで無かったけれど、ザックリンはいじってみるか、と決意したんです(笑)。
そんなチャレンジを、今さんたちがおおらかな心でそのまま使ってくださることがある。そのおかげで、こころの感情が広がって見えているんだろうなと思います。
好きにやらせてもらえる環境で、あのお芝居をして良かったなと思っています。
ここで回収されるんだ
つくづく、「つながっていないものは無い」と感じます。
私の「推し」とキュンキュンという役についても、つながると思うところがあります。私の推しについて、お話ししませんでしたっけ?
前回は、板尾創路さんのお話しかしてないですか。あはははは(笑)。
小学校の高学年から、中学生ぐらいまで「モーニング娘。」さんや、鈴木亜美さんをめちゃくちゃ推していました。
あのときは、オーディションブーム。「ASAYAN」(テレ東系)も見ていましたし、歌番組を録画して、振りを覚えて友達とみんなで歌ったり、踊ったりしていました。
友達と2人で「モー娘。」のオーディションを受けたこともあります。生まれて初めて東京に行ったのは、そのときでした。
結果は、その東京会場の選考1回で落ちちゃったんですけどね。そこで私の中の「アイドルになりたい」という夢には、一区切りついてしまったような感覚がありました。大人になってもかなえたい夢には、ならなかったんです。
そこから声優という仕事に就いて、いまこうして、キュアキュンキュンという役にご縁をいただいた。本当にすごいことだと思っているんです。
数あるプリキュアシリーズの作品のなかで、アイドルをモチーフにした「キミプリ」で、私がプリキュアになれるなんて。
オーディションを経てこの役に決まったとき、「子どものころの憧れが、ここで回収されるんだ」と、ひっそり感動していました。

現役のアイドルさんから、キュンキュンが好きと言っていただけたことにも、不思議なご縁を感じています。
先日、アイドルグループ「わーすた(The World Standard)」さんのポッドキャスト番組「わーすたのにゃんだふるラジオ!」(YouTubeチャンネル「ABCラジオPodcast」などで配信)に出演しました。
メンバーの三品瑠香さんがキュンキュン推しということで、呼んでいただきました。
収録前、三品さんが「お水ないですよね」と言って、スタジオの外へお水を取りに行ってくださって。小玉梨々華さんもずっと、三品さんがどれだけキュンキュン好きかを話してくださいました。
え、推せる……。好きになっちゃうけど~~? そんな気持ちでした。
アイドルとして活躍されている方々がキミプリを見てどう思ったか。それをダイレクトに聞いたことがなかったので、どういう楽しみ方をしてくださっているのかをお聞きすることができて、すごく興味深くて楽しかったです。
アイドルとして活躍されている方々がキミプリを見てどう思ったか。それをダイレクトに聞いたことがなかったので、どういう楽しみ方をしてくださっているのかをお聞きすることができて、すごく興味深くて楽しかったです。
あんなにキュンキュンを愛してくださって、「うれし恥ずかし」という気持ちでしたね。
すべてご縁が

自分としては、キュンキュンを一番愛しているという自負があるんです。こうやってキュンキュンが推されたり、声援を浴びたりしているのを見ると、うれしくなります。
でも、それはあくまでキャラクターが応援されているということ。
声優として、キャラクターソングを歌うライブでも、高森奈津美という人間の要素は、そこに一つもいらないと思うタイプなんです。
10月18日、パシフィコ横浜でライブ「キミとアイドルプリキュア♪LIVE2025 You&I=We're IDOL PRECURE」がありますね。この記事が配信されているころには、ライブも終わっているでしょうか。
ステージには、キュンキュンたちアイドルプリキュアと一起に、私も立ちます。不思議な感覚です。ずっと「私じゃなくてプリキュアを見て」と考えていました。
ただ今回は、「ステージに立つプリキュアだけじゃなくて、私たち声優たちもプリキュアだ」という気持ちで舞台に立ってほしい。そんな風に伝えられました。
確かに私が心配しているのとは違って、お子さんたちは柔軟性も高いし、きっと私を見て「なんだこの大人は?」とは思わないのかもしれません。アイドルプリキュアの曲が流れたら、それだけで、めいっぱい喜んで歌って踊ってくれる。

小さい子にとって、「推し」という気持ちはまだわからないかもしれないけれど、小さな子どもたちの中には、「大好き」の気持ちと同時に「なりたい」という気持ちが同居しているように感じます。私たちが大人になって卒業してしまった感情が、まだ存在している。
そんな純粋な気持ちで、キュンキュンが大好きで、「キュンキュンになりたい」と思ってくれているお子さんたちを信じて、舞台に立とうという気持ちで今はいます。
キュンキュンは、私の夢をかなえてくれました。もちろん自分がアイドルになったわけではありませんが、声優ならではの夢のかなえ方だな、と思っています。
一見して遠く離れて見えるようなことでも、何一つ無駄なことはない。すべてご縁でつながっているのだなあということを感じています。

